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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)15256号 判決

原告

宮澤理子

被告

猪狩中

ほか一名

主文

一  被告らは、各自原告に対し、四八三万三〇四三円及びこれに対する被告猪狩中については昭和五七年一二月三〇日から、被告阿武隈開発興業有限会社については昭和五七年一二月三一日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

四  この判決は、主文第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者双方の求める裁判

一  原告

1  被告らは、各自原告に対し一八九一万八四四七円及びこれに対する被告猪狩中(以下「被告猪狩」という。)については昭和五七年一二月三〇日から、被告阿武隈開発興業有限会社(以下「被告会社」という。)については昭和五七年一二月三一日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者双方の主張

一  請求の原因

1  本件交通事故の発生

(一) 日時 昭和五六年八月二二日午後零時三〇分頃

(二) 場所 東京都渋谷区広尾五―六―六先道路上

(三) 加害車両 被告猪狩運転の普通乗用自動車(以下「被告猪狩車」という。)

(四) 被害者 原告

(五) 態様 原告は、普通乗用自動車(以下「原告車」という。)を運転して広尾橋交差点の一〇〇メートル程手前の明治屋前の道路上を走行中、道路の渋滞により全体の車がセンター寄り車線に車線変更していたため、原告も後方を確認し、センター寄り車線に走行してくる車がないことを確認したうえでゆつくりと車線を変更し、赤信号で停止している前方数台の車の後方で停止していたところ、後方から走行してきた訴外那須俊一運転の普通乗用自動車(以下「那須車」という。)が停止したが、更にその後方から走行してきた被告猪狩運転の自動車が十分な車間距離を保たず、かつ、制限速度四〇キロメートルのところを一〇キロメートルオーバーの速度で進行してきたため急に停止できず、右那須車に追突し、その衝激により那須車を前方に押し出し、その前方に停止していた原告車に追突させたものである(以下「本件事故」という。)。

2  責任原因

(一) 被告猪狩

被告猪狩は、渋滞した道路を走行する際には、前車との十分な車間距離を保つとともに、渋滞のために停止する先行車両との追突を回避することができる程度のスピードで進行しなければならない注意義務があるのに、これを怠つたのであるから、民法七〇九条により損害賠償責任を負うべきである。

(二) 被告会社

被告会社は、加害車両を所有し、自己のため運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条により損害賠償責任を負うべきである。

3  治療の経過

(一) 原告は、本件事故により頸部、腰部捻挫の傷害を受け、次のとおり通院して治療を受けた。

(1) 日本医科大学附属病院

昭和五六年八月二四日から同年一〇月三日まで(実通院日数一六日)

(2) 鈴木接骨院

昭和五六年一〇月七日から昭和五七年八月一八日まで(実通院日数八五日)

(二) 原告は、本件事故により同時に眼球調節機能障害の傷害を受け、次のとおり通院して治療を受けた。

(1) 内幸町眼科

昭和五七年一月二七日から同年八月二五日まで(実通院日数六日)

(2) 東京大学医学部附属病院

昭和五七年二月四日から同年九月二日まで(実通院日数三日)

4  損害

(一) 治療費 五一万八八八〇円

(1) 日本医科大学附属病院 七万三二五〇円

(2) 鈴木接骨院 四三万四〇〇〇円

(3) 内幸町眼科 九六八〇円

(4) 東京大学医学部附属病院 一九五〇円

(二) 通院交通費 一三万五〇七〇円

(三) 眼鏡、コンタクトレンズ代 一八万四九〇〇円

原告は、本件事故による眼球調節機能障害のため、コンタクトレンズと眼鏡を併用しなければ日常活動が不可能となつたので、医師の指示により、遠用コンタクトレンズと近用・遠用の眼鏡を購入し、一八万四九〇〇円を支払つた。

(四) 休業損害 一〇九万〇九四五円

原告は、本件事故直後日アイ・ビー・エム健康保険組合の臨時雇用者として勤務していたが、通院のため昭和五六年九月七日から同年一二月二五日までの間欠勤七日、遅刻、早退四〇時間一分をせざるを得なかつたため、その間賃金の支払を受けられず、六万七二四五円(一時間六七一円)の損害を被つた。

また、原告は、昭和五六年一二月二六日以降家事に従事していたが、昭和五七年九月二日までの間通院、頭痛、肩こり等のために少なくとも一七四日間家事に従事することができず、女子の平均賃金(月額一七万六五〇〇円)相当の損害を被つたというべきであるから、その損害は、次の算式とおり一〇二万三七〇〇円(四捨五入)となる。

17万6,500円÷12×174≒102万3,699円

(五) 逸失利益 一一四五万八七九三円

原告(昭和三〇年九月七日生)は、本件事故により前記のような傷害を負つたため治療を続けてきたが、昭和五七年九月二日眼球調節力不良等の後遺障害(後遺障害等級一一級一号該当)を残して症状が固定したため、それ以降満六七歳に至るまで四一年間二〇パーセントの労働能力を喪失した。原告は、短期大学を卒業した満二六歳の女性であるから、昭和五七年賃金センサス第一巻第一表産業計企業規模計学歴計年齢階級別平均給与額女子高専・短大卒二五~二九歳までの平均給与額(年額二四八万三六〇〇円)を下らない収入を得られるところ、昭和五七年から現在まで少なくとも年五パーセントのべースアツプがあつたことは公知の事実であるから、それを加算した年額二六〇万七七八〇円に新ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して原告の逸失利益の原価を算出すると、次の算式のとおり一一四五万八七九三円となる。

248万3600円×1.05×0.2×21,9704≒1145万8793円

(六) 慰藉料 八〇〇万円

前記諸般の事情のほか、原告は症状固定後も接骨院に通院してマツサージ治療を受けざるを得ない状態にあり、終生スポーツをする楽しみを奪われてしまつたこと等を考慮すると、原告のうけた肉体的精神的苦痛に対する慰藉料は八〇〇万円(傷害についての慰籍料二〇〇万円、後遺症に対する慰藉料六〇〇万円)を下らないものというべきである。

(七) 弁護士費用 一七一万九八五九円

原告は、弁護士小沼清敬に対し本訴提起を委任したが、弁護士費用として訴額の一割の支払を約しているので、一七一万九八五九円相当の損害を被つたことになる。

(八) 損害の填補 四一九万円

原告は自賠責保険より四一九万円を受領した。

5  結論

よつて、原告は、被告らに対し前記(一)ないし(七)の損害合計二三一〇万八四四七円から前記(八)の填補金四一九万円を控除した一八九一万八四四七円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である被告猪狩については昭和五七年一二月三〇日から、被告会社については昭和五七年一二月三一日から、支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中、原告主張の日時、場所において、本件事故が発生したことは認めるが、事故の態様は争う。

2  請求原因2の事実は認め、その主張は争わない。

3  請求原因3の事実中、原告が日本医科大学附属病院に一六回通院したことは認めるが、その余の事実は知らない。

4  請求原因4の事実中、鈴木接骨院に対する治療費を除くその余の治療費の支払については認めるが、その余の事実については不知又は否認する。原告の請求はその傷害に比し過大であり、認められない。

5  請求原因5の主張は争う。

三  被告らの主張

1  過失相殺

原告は、本件事故現場付近の道路は雨に濡れてスリツプ事故が発生しやすい状況にあつたにもかかわらず、あえて車線を変更してセンター寄り車線に割り込み、かつその直後に急停車をするという無謀な運転をしたため、被告猪狩が原告車に追従して走行していた那須車に追突するに至つたのであるから、原告の右運転上の過失を斟酌して相当割合の損害の減額を求める。

2  損害の填補

原告は、本件交通事故により被つた損害の填補として四二四万円の支払を受けているので、その控除を求める。

第三証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一  原告主張の日時、場所において、本件事故が発生したこと(但し、その態様を除く。)、被告らは右事故により原告が被つた損害を賠償すべき責任があること、はいずれも当事者間に争いなく、いずれも成立に争いない甲第六号証、同第八号証、同第一〇号証、同第一二号証、同第二八号証、同第三〇号証、同第三二号証、同第四二号証の各記載に証人宮澤裕一の証言、原告本人尋問の結果及び本件口頭弁論の全趣旨を総合すると、原告の受傷後の治療の経過は原告主張の請求原因3のとおりであることが認められ(但し、日本医科大学附属病院に一六回通院したことは争いない。)、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

二  そこで、原告の損害について判断する。

1  治療費 三〇万一八八〇円

原告は、本件事故により負つた傷害の治療のため、日本医科大学附属病院、東京大学医学部附属病院、内幸町眼科に通院し、その治療費として八万四八八〇円支出したことは、当事者間に争いない。ところで、いずれも成立に争いない甲第九号証、同第一一号証、同第三一号証、同第三三号証の各記載に原告本人尋問の結果を総合すると、原告は、本件事故による受傷後鈴木接骨院に通院し合計四三万四〇〇〇円の治療費を支払つたことが認められるが。原告本人尋問の結果によれば、原告は頸部捻挫、腰部捻挫の治療のため鈴木接骨院に通院してマツサージ等の治療を受けたとはいえ、それは原告の治療を担当した医師の指示によるものではなく、また、本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度等の諸事情に鑑みれば、数日間連続してあるいは一週間に二、三回もマツサージ治療を受けなければならないような状況にあつたと認めるに足りる確証はないから、右金員の二分の一に相当する二一万七〇〇〇円に限り本件事故と相当因果関係にある損害と認めるのが相当である。

2  通院交通費 四万四〇〇〇円

弁論の全趣旨と原告本人尋問の結果によりいずれも真正に成立したものと認められる甲第一七号証、同第一八号証の一ないし三七、同第一九号証の一、二、同第二〇号証、同第三八号証の一、二、同第四〇号証の各記載によれば、原告は、自宅から病院等に通院するためタクシー、電車を利用し、一三万円を下らない支出をしたものと認められるが、原告の傷害の部位、程度、交通機関の便等に照らせば、通院のため必ずタクシーを利用しなければならない状況にあつたとは認められないから、電車利用代金として通院一回につき四〇〇円、合計四万四〇〇〇円(実通院日数一一〇回)の限度で本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当であり、右金額を超える支出は本件事故による損害とは認められない。

3  眼鏡・コンタクト代 一八万四九〇〇円

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一三号証、同第三六、第三七号証の各記載に原告本人尋問の結果を総合すると、原告は、本件事故のため眼球調節機能障害の後遺症が残り、コンタクトレンズと眼鏡を併用しなければ日常生活上不便を来たすことになつたため、医師の指示により遠用コンタクトレンズと近用・遠用眼鏡を購入し、一八万四九〇〇円を支出したことが認められ、右支出が原告の右後遺症に照らして不相当な支出とは認めるに足りる証拠はないから、右支出は、本件事故により原告が被つた損害と認めるのが相当である。

4  休業損害 三五万七二四五円

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一四、第一五号証、同第一六号証の一ないし五の各記載に原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は、本件事故後昭和五六年一二月二五日までの間通院のため勤務先を欠勤、遅刻、早退したため、給料の支払を受けることができず、六万七二四五円の損害を被つたこと、また、勤務先を退職した後の昭和五六年一二月二六日から昭和五七年九月二日までの間に五八日間通院し、その間家事に従事することができなかつたため、その日数につき女子の平均賃金にほぼ相当する一日五〇〇〇円程度、合計二九万円の損害を被つたものと推認することができる。原告は、右通院日以外の自宅にいる間も頭痛、肩こり、吐気等のため家事に従事することができなかつたとしてその間の損害を請求するが、原告が自宅にいる間苦痛のため家事に全く従事することができなかつたことを認めるに足りる確証はないから(右認定に反する原告本人の供述は措信できない。)、右請求は認められない。

5  逸失利益 六八九万〇七七九円

成立に争いない甲第四二、四三号証の各記載、証人宮澤裕一の証言、原告本人尋問の結果並びに本件口頭弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和三〇年九月七日生まれの女子であつて、昭和五二年三月和泉短期大学卒業後ゆかり幼稚園に約三年間勤務して退職し、昭和五六年五月から日本アイ・ビー・エムにアルバイトとして働いたこともあつたが、本件事故当時は失職中であつたところ、本件事故により頸椎捻挫、視力調節衰弱等の傷害を負い、その後日本医科大学附属病院等に通院して治療を受けたものの全治せず、昭和五七年九月二日眼球調節力低下(左右とも二・五デイオプター)の後遺障害を残して症状が固定しており、自賠法施行令別表第二級一号相当と認定されていること、原告は、事故後の昭和五六年九月から再び日本アイ・ビー・エムにアルバイトとして勤務したが、同年一二月退職し、昭和五七年一月宮澤裕一と婚姻して以来主婦兼会社寮の留守番として働いていること、東京大学医学部附属病院眼科では事故後一年経ても原告の症状の回復傾向ははつきりしないので眼球調節の低下の状態が続くものと考えられると診断され、原告本人も眼の不調、頭痛、肩こり等を訴え、家事労働の一部を夫に手伝つてもらつていることが認められる。しかし、原告本人尋問の結果と経験則によれば、原告の眼の不調はコンタクトレンズと眼鏡の併用によつて日常生活にさほど支障のない程度に改善されたものと窺われることができるし、原告の頭痛、肩こり等はいわゆるむち打症によるもので原告の心因的要素にも基因するものというべきものであるから、原告をとりまく環境の変化や歳月の経過に従い将来ある程度軽減されるものと推認することができ、これを覆えすに足りる証拠はない。

右のような原告の障害の部位、程度、年齢、家庭環境、症状回復の見込みないし程度等諸般の事情を総合勘案すれば、原告の労働能力喪失割合は、後遺症状の固定後の昭和五七年一〇月一日から二〇年間は二〇パーセント、その後二〇年間は一〇パーセントとみるのが相当である。そして、経験則によれば、原告は、右症状固定後少なくとも四〇年間は主婦等として稼働することができ、その間昭和五七年度賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・高専・短大卒の女子労働者全年齢計の平均賃金である年額二三二万六三〇〇円を下らない収入を得られるものと推認されるので、以上の数値を基礎に原告の逸失利益をライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して症状固定時における現価を算出すると、次の計算式のとおり六八九万〇七七九円(一円未満切捨て)となる。

232万6300×{0.2×12.4622+0.1×(17.1590-12.4622)}≒689万0779円

6  慰藉料 三〇〇万円

前記認定にかかる原告の傷害の部位、程度、通院期間、後遺症の程度等諸般の事情を考慮すると、原告の被つた精神的・肉体的苦痛に対する慰藉料としては三〇〇万円をもつて相当と認める。

7  過失相殺

いずれも成立に争いない乙第七号証の一ないし、三、同第八号証ないし第一五号証、同第二〇号証の一、二の各記載に証人那須俊一の証言、原告及び被告猪狩各本人尋問の結果を総合すると、次の事実を認めることができる。

本件事故現場は、東京都渋谷区広尾五丁目六番六号の道路上であるが、右道路はアスフアルト舗装で平たんであり、片側三車線の幅員約一一メートルの広い道路であつて、天現寺方面から西麻布方面にかけては見通しがよいこと、被告猪狩は、普通乗用自動車を運転し右道路を天現寺方面から西麻布方面に向い時速約四五キロメートル(最高速度制限四〇キロメートル)で進行して本件事故現場付近にさしかかつたこと、被告猪狩は前方を走行中の那須車に追従して進行してきたのであるが、当時降雨中で路面が濡れ車輪が滑りやすい状態にあつたから安全な車間距離を保ち、かつ、走行車の動静を十分注視して進行すべきであるのに漫然と右速度のまま進行したため、先行の那須車に追突し、その衝撃により右那須車を前に押し出し、その前方に停車していた原告車に衝突させたこと、他方、原告は、普通乗用自動車を運転し天現寺方面から西麻布方面に向けて走行してきたのであるが、走行してきた三車線の中央車線が車で渋滞し、そのまま前方に進行することに支障があつたため、隣りの中央寄りの車線を走行しようと考え、ハンドルを右に切つて車線を変更しようとしたこと、しかし当時中央寄りの車線には同一方面に向けて走行してくる自動車があつたから急に車線を変更して中央寄りの車線に出た場合、後続車と衝突する危険があつたにもかかわらず、後続車の有無を十分確認しないままあえて中央寄りの車線に進出し、かつ、前車に衝突するのを避けるため急停車したため那須車に追突されたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する原告及び被告猪狩各本人の供述部分は措信し難く、他に右認定を覆えすに足りる確証はない。

右事実によれば、原告は、走行車線の前方が渋滞のため車線を変更して中央寄りの車線に進出しようとしたのであるが、原告としては、後続車の有無を十分確認するとともに、後続車との車間距離が十分でなく同車と衝突する危険があるときは車線を変更するような措置をとるべきではないのにかかわらず、後続車の有無を十分確認しないままあえて車線を変更したうえその直後に急停車したのであるから、原告にも過失があるというべく、原告の右過失については二〇パーセントの割合による過失相殺をするのが相当と認める。

そうすると、原告の有する残損害額は、前記1ないし6の合計一〇七七万八八〇四円の八割に相当する八六二万三〇四三円(一円未満切捨て)となる。

8  損害の填補 四二四万円

原告は、本件事故による損害の填補として自賠責保険から四一九万円を受領したことは原告自ら認めるものであるところ、成立に争いない乙第三号証の記載と被告猪狩本人尋問の結果によれば、被告猪狩は、昭和五六年八月二八日原告に対し賠償金の一部として五万円を支払つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

9  弁護士費用

原告が被告らから前記損害金の任意の弁済を受けられないため、やむなく原告訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、相当額の着手金、報酬金を支払うことを約したことは本件記録と弁論の全趣旨により明らかであるところ、本件事案の内容、審理の経過、認容額、その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用として被告らに対し請求しうる金額は、四五万円をもつて相当と認める。

三  結論

以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、被告らに対し、本件損害賠償として四八三万三〇四三円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である被告猪狩については昭和五七年一二月三〇日から、被告会社については昭和五七年一二月三一日から、各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容するが、その余は理由がないので失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言について同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 塩崎勤)

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